東京地方裁判所 平成6年(ワ)21432号 判決 1996年9月09日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
理由
一 請求原因1(当事者)の事実は、当事者間に争いがない。
二1 請求原因2(本件代理店契約の締結)の内、代理店契約書及び協定書の調印の事実は、当事者間に争いがない。
右争いのない事実と《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告代表者の石山里丘(以下「石山」という。)は、昭和五七年ころから、SFL九〇〇〇シリーズの基となるレーザー加工機の開発を手がけるようになり、昭和六二年に自らが代表取締役となり「株式会社エム アイ ディー」(原告とは別法人であり、以下「旧エム アイ ディー」という。)を設立したが、平成二年一月一九日、石山が開発したレーザー加工機の製造・販売のため、別会社のファイン・マシニング・コンサルティング株式会社(原告)を設立し、同社の代表取締役に就任した。
(二) 被告は、平成四年一一月ころ、主要な取引先であるNECの紹介により、旧エム アイ ディーとの間の商談を持つに至り、平成五年二月二四日、NEC製レーザー装置五セットを旧エム アイ ディーに対し販売し、これらは旧エム アイ ディーの要請により同年三月から九月にかけて納入され、SFL九〇〇〇シリーズに搭載された。
(三) 被告システム機器第二営業本部営業部に所属する被告の従業員滝井康之(以下「滝井」という。)及び長島誠治(以下「長島」という。)は、同年二月三日、右NEC製のレーザー装置の技術説明のため、NECの技術者とともに旧エム アイ ディー本社を訪問した。その際、石山は、滝井らに対し、半導体及び液晶の生産工程に導入されるSFL九〇〇〇シリーズという機械があり、これは製品に直接パターンニング加工ができ、従来の生産設備よりも大幅な設備削減ができる画期的なものである旨述べ、被告がその販売代理店となる意向があるかとの打診を行った。
(四) 被告システム機器第二営業本部本部長兼営業部長の杉本勝(以下「杉本」という。)は、滝井らの報告を受け、SFL九〇〇〇シリーズについて興味を持った。その後、前記NEC製レーザー装置の納入に関する打合せの際、石山は、杉本に対し、SFL九〇〇〇シリーズの特徴について、次のとおり説明した。
(1) ドライカッティングが可能となり、半導体及び液晶生産工程における前工程が不要となるため、七億円以上の設備費削減が可能となる。
(2) YAGレーザー第二高調波を使用することにより従来にない微細加工を可能とし、加工の際の残滓は昇華してしまうので飛散がなく、フロン洗浄及びクリーンルームを必要としない。
(3) ミクロン台の加工を可能とする。
(4) 除震台には一枚石の大理石を使っており、温湿度補正まで可能となる。
(5) リニアを使った裁物台(XYテーブル)を使用しており、加工速度及び位置精度が向上する。
(6) カット面が精密であることから版下板、リードフレーム加工等への加工機として使用できる。
また、石山は、SFL九〇〇〇シリーズの売却先は多数あり、液晶の国内最大手メーカーからも具体的な引き合いが来ている旨述べた。
(五) 杉本は、同年三月一七日、石山の紹介により、原告(当時の商号は「ファイン・マシニング・コンサルティング株式会社」)の代表取締役で、かつ旧エム アイ ディーの融資先であるシュローダー(イギリスに本社を有するベンチャー企業)日本法人の代表者であった伊藤良二(以下「伊藤」という。)と面談した。伊藤は、杉本に対し、旧エム アイ ディーは将来有望なメーカーであるので、融資等強力な支援を行う意向である旨述べ、また、杉本がSFL九〇〇〇シリーズに興味がある旨述べたところ、SFL九〇〇〇シリーズの概要及び販売の見通しについて、次のとおり説明した。
(1) SFL九〇〇〇シリーズは三機種あり、SFL九〇〇〇は汎用加工機、SFL九二〇〇はOA機器、カメラ等の製造用の加工機、SFL九四〇〇は液晶製造用の加工機である。
(2) 代理店として販売を希望する会社は現在数社ある。
(3) 営業対象は国内のユーザー会社とし、同年四月末までに成約したところへ分担する。
(4) 事業として早急に立ち上がる状況にあり、数十億円規模の事業となる。
(六) その後、伊藤は、被告に対し、代理店契約書及び協定書の素案を送付した。右代理店契約書案には、以下のような条項が存在した。
(1) 原告は被告をSFL九〇〇〇シリーズの販売代理店として指定し、右商品を継続的に売り渡すことを約し、被告はこれを買い受け右商品の拡販に努力し、契約締結後六か月以内に、原告は少なくとも一台のSFL九〇〇〇を被告の指定する場所に出荷し、被告は後記支払条件及び協定書により原告に対しその代金を支払う。
(2) 被告の年間最低買付数量は協定書で定めることとし、右数量が達成されない場合は、被告は原告の販売代理店としての資格を失うことがある。
(3) 被告が契約条項のいずれかに違反したときは、原告は催告を要せず契約を解除し、被告の原告に対する債務全額について期限の利益を失わせ、被告は原告に対し債務全額を直ちに支払う義務を負う。
また、右協定書案では、具体的な最低買付数量の定めは空白とされていた。
(七) 杉本は、同年四月一五日、右素案をもとに代理店契約書及び協定書の内容を検討するため、伊藤と面談した。伊藤は、杉本に対し、現在代理店となることを希望している会社は数十社あるが、販売代理店は全国で一〇社程度に厳選しようと考えていること、現在有望な商談はシャープ、三洋、新光電気工業、セイコーエプソン、セイコー電子工業等であり、この中にはサンプル加工実験が進んでおり、成約が近いところもあることなどを述べた。杉本が、被告に回してもらえる得意先はあるかと尋ねたところ、伊藤は、顧客リストを渡すので、被告として取引できる得意先を明確にしておいてほしい旨述べた。
(八) 原告は、同年五月一一日、被告に対し、最低買付数量及び価格等の取引条件が記載された代理店契約書及び協定書の文案をファックスで送付した。その際、京都で開催される半導体液晶関連製造装置の見本市「セミコン関西京都展」(以下「セミコン」という。)に、SFL九〇〇〇シリーズを出展する旨の通信もなされた。
(九) 石山は、同年六月二日、杉本、長島等の被告担当者を対象としたSFL九〇〇〇シリーズの技術説明会を行った。石山は、右説明会において、SFL九〇〇〇及びSFL九四〇〇の実演を行うとともに、SFL九四〇〇のITOのレーザープロセッシング加工部拡大走査型電子顕微鏡写真(甲一七の一添付別紙3)、YAGレーザーの第二高調波によるITOの加工例写真(甲一七の二5頁写真3)、LPMによるITOの加工写真(同11頁写真5)及びパンフレット(甲八)を示して、SFL九〇〇〇シリーズの特徴について、大要次のとおり説明した。
(1) SFL九〇〇〇は、少量生産用の汎用加工機であり、SFL九四〇〇は、大量生産用の液晶ITO膜専用の加工機であり、将来的には半導体製造にも応用可能なものである。半導体及び液晶の薄膜微細加工を行う場合、従来の加工工程では、フォトレジスト、露光、エッチング、フロン洗浄といった工程を要するが、SFL九〇〇〇シリーズを使用すれば、これらの工程を省略して、レーザーを使って直接マスクの微細加工を行うことができる。
(2) 従来のレーザー加工機は、加工速度が遅く、また、加工面に多量の残滓が付着するという問題点があったが、SFL九〇〇〇シリーズは、加工速度については、旧エム アイ ディーが独自に開発したリニアモーター式のXYテーブルにより、サブミクロンの精度を保ちつつ、毎秒一〇〇〇ミリメートルという超高速駆動を実現し、また、加工面については、YAGレーザーの第二高調波を採用することにより、エッジ盛り上がりを五〇ナノメーター以下とし、加工面の残滓も極めて少なくシャープな加工が可能となり、かつレーザーで空気中のほこりを飛ばし、薄膜の残りかすも気体に昇華させて基盤上に付着しないため、クリーンルームもフロン洗浄も不要となる。
(3) したがって、設備コスト及び設備管理費の大幅な削減が可能となり、また、フロン洗浄が不要となるために、環境汚染の防止にも大きく資する。
(一〇) 同年六月一〇日から一二日までの間開催された前記セミコンにおいて、SFL九〇〇〇及び同九四〇〇が出展され、SFL九〇〇〇を用いた半導体ウエハー及びSFL九四〇〇を用いた液晶のITO膜のサンプル加工の実演が行われ、旧エム アイ ディーの担当者が前記パンフレット等を用いて見学者に対してSFL九〇〇〇シリーズの技術説明を行い、被告担当者は見学者の整理等の補助的業務を行った。また、その後、同年七月中旬に東京の晴海で開催された見本市においても、SFL九〇〇〇及び同九四〇〇が出展された。
(一一) 伊藤は、同年六月二八日、杉本に対し、旧エム アイ ディーの資金繰りの関係で代理店契約書が必要なので返送してほしい旨記載された連絡票をファックスで送付した。右ファックスには、「技術的適応可能性の大きいアプリケーション/ユーザー」と題する表が添付されていた。そこで、原告及び被告は、同年七月初めころ、同年五月二八日付の本件代理店契約書及び協定書に調印した。
(一二) 長島は、右セミコンが終了したころから、原告から交付された販売先リスト及び独自の販売ルートを通じて、半導体及び液晶メーカー(新規参入を考えているメーカーを含む。)を訪問してSFL九〇〇〇シリーズの概要を説明し、各売込先の要望に応じてサンプル加工実験を行い、各売込先の意見を聞き改善策を検討するなどの営業活動を開始した。
2 以上認定の事実によれば、被告は、SFL九〇〇〇シリーズが画期的なレーザー装置である旨原告から説明を受けて、これに興味を示し、自ら販売代理店となることを意図して、見本市に従業員を派遣し、具体的な販売価格及び最低買付数量等が定められた代理店契約書及び協定書に調印し、半導体及び液晶メーカーに対してSFL九〇〇〇シリーズの営業活動を行うなど、販売代理店としての行為を行っているのであるから、右代理店契約書及び協定書に調印することによって、原告と被告との間において、本件代理店契約が締結されたものというべきである。
被告は、これに反し、右代理店契約書及び協定書の調印は、資金調達に必要であるとの原告の懇請により便宜上行ったものにすぎず、真実本件代理店契約を締結する意思はなかった旨主張し、《証拠略》中にもこれに沿う陳述ないし供述部分がある。
確かに、前記認定のとおり、原告は、被告に対し、資金繰りの都合上代理店契約書が必要であるとして調印を求めている。しかし、右依頼の事実をもって直ちに本件代理店契約が仮装された実体を欠くものであるとはいえない。かえって、右依頼の時点において、既に原告及び被告間において本件代理店契約の締結に向けた具体的な協議が進行していたことは前記認定のとおりである。また、《証拠略》によれば、原告は、平成五年一〇月一日付けで改めて代理店契約書案を被告に対して送付していることが認められるが、右代理店契約書案は最低買付数量に代えて被告が保証金を委託する旨の条項が付加されたものであり、原告が本件代理店契約が一旦成立したことを前提とした上、資金繰りの必要上その内容を改訂する旨申し入れる趣旨のものであると推認できる。これらの事実に照らして、前記陳述ないし供述部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
3 また、前記認定のとおり、杉本及び伊藤は、商談成立がほぼ確実に見込まれることを前提として協議しており、《証拠略》によれば、右代理店契約書においては、最低買付数量の定めを含む契約条項違反があった場合は損害賠償請求の事由となる旨定められていることが認められるのであるから、右最低買付数量の定めは、被告に対し契約上の購入義務を負わせるものであると解するのが相当である。《証拠略》中の右数量の定めは努力目標にすぎない旨の陳述ないし供述部分は、採用することができない。
三 抗弁1(本件代理店契約の錯誤無効)につき判断する。
1 前記二1において認定した事実によれば、原告は、被告に対し、SFL九〇〇〇シリーズがパンフレット等に記載された性能を有し、製品として販売できる段階に至ったものである旨説明して、本件代理店契約の締結を勧誘したものであり、被告は、右説明により、SFL九〇〇〇シリーズが右説明のとおりの性能を有する機械であるものとの前提のもとに本件代理店契約を締結するに至ったものであることが認められる。
2 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
(一) SFL九〇〇〇シリーズについて、売込先からの依頼により実施されたサンプル加工実験の経緯は、次のとおりであった。
(1) セイコーエプソン
平成五年七月ころ、SFL九四〇〇により、液晶ガラス基板ITO膜のパターンニングのサンプル加工実験が実施されたが、<1>ITO膜の下基盤に傷をつけてしまう、<2>六本あるビームの線幅がばらついている、<3>加工速度が遅く、パンフレット記載の性能が一秒あたり一〇〇〇ミリメートルで加工できるというのに、一秒あたり三〇〇ミリメートル程度しか加工ができていないなどの問題点があり、セイコーエプソンの評価は、液晶の製造工程の初歩段階であるITO膜の加工すら現状では不可能であり、液晶の製造工程には使い物にならないとの評価であった。同年八月、再度サンプル加工実験が実施されたが、<1>加工速度が遅い、<2>切り口のエッジ盛り上がりが大きいとの評価であった。その後、平成六年一月に再度サンプル加工実験が予定されたが、装置の安定度が保たれないなどの理由で実施されなかった。
(2) NEC(半導体)
伊藤、石山及び長島は、平成五年六月二二日、SFL九〇〇〇シリーズの売込みのためNEC半導体事業部を訪問した。同事業部の技術者は、パンフレット記載の性能が実現され、半導体の加工が可能であれば検討する旨述べ、同社は、同月三〇日、半導体用シリコンウエハーへのパターンニングのサンプル加工実験を依頼した。そこで、石山は、SFL九〇〇〇により右サンプル加工実験を実施した。ところが、同年九月二七日、同事業部の技術者は、右実験結果について、半導体は非常に微細なパターンを形成していくので、少しでも飛散があってはならないが、SFL九〇〇〇での加工はウエハー上にかなりの飛散があるので、半導体のパターンニングは不可能であるとの評価を下し、また、装置を販売するメーカーであるなら、評価装置を整え、顧客にサンプルとともにデータ及び写真をそろえて提出すべきである旨苦情を述べた。すると、石山は、SFL九〇〇〇での半導体用シリコンウエハーの加工は初めてであり、長期的な技術改良が必要で、現時点では半導体の加工はできず、また、評価装置をそろえてユーザーに対応するほどの余裕がない旨述べた。
(3) NEC(液晶)
長島は、同年九月一七日、SFL九〇〇〇シリーズの売込みのためNECカラー液晶事業部を訪問した。同技術部長は、パンフレット記載の性能に興味を示し、液晶基盤へのパターンニングがパンフレット記載の仕様どおりできるのであれば検討する旨回答した。長島は、同年一〇月二九日、石山を同行して再度同事業部を訪問したところ、液晶ガラス基板のサンプル加工実験を行うことに内定し、同年一二月二八日に正式にサンプル加工実験の依頼を受けた。そこで、長島は、同事業部から預かったサンプル基板を実験のため石山に預けたが、石山は右サンプル加工実験を実施しなかった。
(4) 富士通
長島及び石山は、同年七月二日、SFL九〇〇〇シリーズの売込みのため富士通半導体部門を訪問した。担当者は、パンフレットの記載内容及び技術説明に興味を示し、サンプル加工実験を希望した。そこで、石山は、同年八月三一日、SFL九〇〇〇により、クロム材質の半導体マスクのパターンニングのサンプル加工実験を富士通の担当者立会いの上実施したところ、<1>技術説明においては残滓が気体となって昇華するとのことであったが、実際は液体となって周りに飛び散ってしまい、また、<2>クロム膜を加工した経験がないため、加工条件すら出すことができなかった。同年九月に再度実施されたサンプル加工実験の結果も同様であり、富士通担当者は、金属膜の加工は不可能である旨の評価を行った。すると、石山は、クロムマスクの加工は未経験であり、長期的に技術改良が必要であり、現時点では不可能である旨述べた。
(5) 新光電気工業
長島及び石山は、同年七月一日、SFL九〇〇〇シリーズの売込みのため新光電気工業を訪問した。既にSFL九〇〇〇を使用し、三、四回半導体用リードフレームのカッティングサンプル加工実験が実施されていたが、同社の担当者は再度の実験を依頼し、同年八月に実験が行われたが、担当者の評価は、<1>スピードが遅い、<2>きれいな加工は不可能とのものであった。
(6) このほか、数社からの依頼によりサンプル加工実験が実施されたが、これら各社の評価を総合すると、同シリーズは理論的には優れたものであるが、実際は次のような問題点があるとのことであり、いずれの社とも具体的な商談には至らなかった。
<1> 半導体ウエハーへのパターンニングは不可能である。
<2> オートフォーカス仕様が必要である。
<3> 液晶のパターンニングの中では、一番簡易な工程であるITO薄膜除去にしか使えず、液晶の全工程の加工は不可能であり、したがって、液晶製造工程においてクリーンルームが不要になるということもない。
(二) このような状況の下で、原告は、平成六年一月ころ、被告に対し、平成五年一二月二〇日付「レーザープロセッシングマシーンSFL九四〇〇改良計画」と題する文書を交付した。右文書には、SFL九四〇〇について、自動光軸調整機構を設ける、レーザー光の重複による熱影響を解決するためのポジションフィードバックレーザーコントロール法を搭載する、オートフォーカスの作動ストロークを広げる、加工の際に出る残滓を真空吸引する吸煙ノズルを設置する、ワークテーブルを精度に難点があるアルミ製からグラナイト製に変え、ガラス基板に全く変形を与えずに吸着する構造とする、オートアライメントの採用により新たにθ軸を設ける等の改良を進めており、改良が完了するのは平成六年二月末である旨記載されていた。
3 以上認定の事実によれば、SFL九〇〇〇シリーズは、本件代理店契約の締結の際に原告及び被告間において前提とされていた性能(前記二1(九)参照)を初めから具備しておらず、売込先の需要に応じて機能の調整が必要であるとしても、調整を行えば直ちに実用が可能であるような機械ではなかったものであると認められる。
原告は、SFL九〇〇〇シリーズが、予定された性能を具備した完成品であり、販売実績もある旨主張し、《証拠略》中にもこれに沿う陳述ないし供述部分があるが、右陳述ないし供述部分は、実験データ等の客観的裏付けを全く欠いているから、採用することはできず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、SFL九〇〇〇シリーズは、原告の説明によって原告と被告との間の合意の内容とされた性能を有しなかったものであり、被告の本件代理店契約締結の意思表示には、その対象商品であるSFL九〇〇〇シリーズの性能という重要部分についての錯誤があり、右錯誤は法律行為の要素の錯誤であるということができるから、本件代理店契約は要素の錯誤により無効であるというべきである。
三 結論
以上によれば、原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長野益三 裁判官 玉越義雄 裁判官 名越聡子)